田村昇士のブログ

田村昇士のブログです

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田村昇士

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桜の季節ももう終わり

桜の季節ももう終わり。 次はゴールデンウィークが待っています。 海へ山へのレジャーはもちろん ツーリング、サーフィン、釣り、温泉など 楽しみ方は人それぞれです。 ところで消費税が増税されてから 電車賃や郵便の料金が中途半端に なってしまいましたね…

芥川龍之介 魚河岸

去年の春の夜(よ)、――と云ってもまだ風の寒い、月の冴(さ)えた夜(よる)の九時ごろ、保吉(やすきち)は三人の友だちと、魚河岸(うおがし)の往来を歩いていた。三人の友だちとは、俳人の露柴(ろさい)、洋画家の風中(ふうちゅう)、蒔画師(まきえ…

芥川龍之介 ひょっとこ

吾妻橋(あずまばし)の欄干(らんかん)によって、人が大ぜい立っている。時々巡査が来て小言(こごと)を云うが、すぐまた元のように人山(ひとやま)が出来てしまう。皆、この橋の下を通る花見の船を見に、立っているのである。 船は川下から、一二艘(そ…

有島武郎 親子

二時を過ぎて三時に近いと思われるころ、父の寝床のほうからかすかな鼾が漏れ始めた。彼はそれを聞きすましてそっと厠に立った。縁板が蹠(あしうら)に吸いつくかと思われるように寒い晩になっていた。高い腰の上は透明なガラス張りになっている雨戸から空…

有島武郎 親子

今夜は何事も言わないほうがいい、そうしまいに彼は思い定めた。自分では気づかないでいるにしても、実際はかなり疲れているに違いない父の肉体のことも考えた。 「もうお休みになりませんか。矢部氏も明日は早くここに着くことになっていますし」 それが父…

有島武郎 親子

父は黙って考えごとでもしているのか、敷島を続けざまにふかして、膝の上に落とした灰にも気づかないでいた。彼はしょうことなしに監督の持って来た東京 新聞の地方版をいじくりまわしていた。北海道の記事を除いたすべては一つ残らず青森までの汽車の中で読…

有島武郎 親子

「お前は夕飯はどうした」 そう突然父が尋ねた。監督はいつものとおり無表情に見える声で、 「いえなに……」 と曖昧(あいまい)に答えた。父は蒲団(ふとん)の左角にひきつけてある懐中道具の中から、重そうな金時計を取りあげて、眼を細めながら遠くに離し…

有島武郎 親子

監督は一抱(かか)えもありそうな書類をそこに持って出た。一杯機嫌になったらしい小作人たちが挨拶を残して思い思いに帰ってゆく気配が事務所の方でしていた。冷え切った山の中の秋の夜の静まり返った空気の中を、その人たちの跫音(あしおと)がだんだん…

有島武郎 親子

事務所にはもう赤々とランプがともされていて、監督の母親や内儀(おかみ)さんが戸の外に走り出て彼らを出迎えた。土下座せんばかりの母親の挨拶などに対しても、父は監督に対すると同時に厳格な態度を見せて、やおら靴を脱ぎ捨てると、自分の設計で建て上…

有島武郎 親子

一行はまた歩きだした。それからは坂道はいくらもなくって、すぐに広々とした台地に出た。そこからずっとマッカリヌプリという山の麓(ふもと)にかけて農場は拡がっているのだ。なだらかに高低のある畑地の向こうにマッカリヌプリの規則正しい山の姿が寒々…

有島武郎 親子

「おい早田」 老人は今は眼の下に見わたされる自分の領地の一区域を眺めまわしながら、見向きもせずに監督の名を呼んだ。 「ここには何戸はいっているのか」 「崕地(がけち)に残してある防風林のまばらになったのは盗伐ではないか」 「鉄道と換え地をした…

有島武郎 親子

五、六丁線路を伝って、ちょっとした切崕(きりざし)を上がるとそこは農場の構えの中になっていた。まだ収穫を終わらない大豆畑すらも、枯れた株だけが立ち続いていた。斑(まだ)ら生(ば)えのしたかたくなな雑草の見える場所を除いては、紫色に黒ずんで…

有島武郎 親子

彼は、秋になり切った空の様子をガラス窓越しに眺めていた。 みずみずしくふくらみ、はっきりした輪廓(りんかく)を描いて白く光るあの夏の雲の姿はもう見られなかった。薄濁った形のくずれたのが、狂うようにささくれだって、澄み切った青空のここかしこに…

伊藤野枝 転機

と思い出したように教えてくれる。もとは、この土地に住んでいた村民の一人だというその男は、この情ないような居村の跡に対しても、別段に何の感じもそ そられないような無神経な顔をして、ずっと前にこの土地の問題が世間にかれこれいわれた時のことなどを…

伊藤野枝 転機

「本当にね。ずいぶんひどい荒れ方だわ。こんなにもなるものですかねえ。」 「ああ、なるだろうね、もうずいぶん長い間の事だから。しかし、こんなにひどくなっていようとは思わなかったね。なんでも、ここは実にいい土地だったんだ そうだよ。田でも畑でも…

伊藤野枝 転機

そういったなりで、後の言葉がつづかなかった。ひどい! という言葉も、私が今一度に感じた複雑な感じのほんの隅っこの切れっぱしにすぎないとしか思え ないような、不満な思いがするのであった。冬ではあるが、それでも、こうして立っている足元から前に拡…

伊藤野枝 転機

彼はさも、何でもないことを大げさに信じている私達を笑うように、また私達をそう信じさせる村民に反感をもってでもいるように、苦い顔をしていい切ると、またスタスタ先になって歩き出した。 いつのまにか、行く手に横たわった長い堤防に私達は近づいていた…

伊藤野枝 転機

「別に用というわけではありませんが、じつはここに残っている人達がいよいよ今日限りで立ち退かされるという話を聞いたもんですから、どんな様子かと思って――」 「ははあ、今日かぎりで、そうですか、まあいつか一度は、どうせ逐い払われるには極まったこと…

伊藤野枝 転機

ようやく、向うから来かかる人がある。待ちかまえていたように、私達はその人を捉えた。 「さあ、谷中村といっても、残っている家はいくらもありませんし、それも、皆飛び飛びに離れていますからな、何という人をおたずねです?」 「Sという人ですが――」 「…

伊藤野枝 転機

「谷中村ですか、ここを右に行きますと堤防の上に出ます。その向うが谷中ですよ。ここも、谷中村の内にはなるんですがね。」 一人の男がそういって教えてくれると、すぐ他の男が追っかけるようにいった。 「その堤防の上に出ると、すっかり見晴らせまさあ。…

伊藤野枝 転機

土手の蔭は、教えられたとおりに河になっていて舟橋が架けられてあった。橋の手前に壊れかかったというよりは拾い集めた板切れで建てたような小屋がある。腐りかけたような蜜柑や、みじめな駄菓子などを並べたその店先きで、私はまた尋ねた。 小屋の中には、…

伊藤野枝 転機

その思いがけない景色を前にして、私はこれが長い間――本当にそれは長い間だった――一度聞いてからは、ついに忘れることの出来なかった村の跡なのだろ うと思った。窪地といってもこの新しい堤防さえのぞいてしまえば、この堤防の外の土地とは何の高低もない普…

伊藤野枝 転機

+目次 一 不案内な道を教えられるままに歩いて古河の町外れまで来ると、通りは思いがけなく、まだ新らしい高い堤防で遮られている道ばたで、子供を遊ばせている老婆に私はまた尋ねた。老婆はけげんな顔をして私達二人の容姿に目を留めながら、念を押すように…

芥川龍之介 一番気乗のする時

僕は一体冬はすきだから十一月十二月皆好きだ。好きといふのは、東京にゐると十二月頃の自然もいいし、また町の容子(ようす)もいい。自然の方のいいといふのは、かういふ風に僕は郊外に住んでゐるから余計(よけい)そんな感じがするのだが、十一月の末(…

芥川龍之介 イズムと云ふ語の意味次第

イズムを持つ必要があるかどうか。かう云ふ問題が出たのですが、実を云ふと、私(わたし)は生憎(あいにく)この問題に大分(だいぶ)関係のありさうな岩野泡鳴(いはのはうめい)氏の論文なるものを読んでゐません。だからそれに対する私の答も、幾分新潮…

芥川龍之介 遺書

僕等人間は一事件の為に容易に自殺などするものではない。僕は過去の生活の総決算の為に自殺するのである。しかしその中でも大事件だつたのは僕が二十九 歳の時に秀夫人と罪を犯したことである。僕は罪を犯したことに良心の呵責は感じてゐない。唯相手を選ば…

芥川龍之介 飯田蛇笏

或木曜日の晩、漱石先生の処へ遊びに行っていたら、何かの拍子に赤木桁平が頻(しきり)に 蛇笏を褒めはじめた。当時の僕は十七字などを並べたことのない人間だった。勿論蛇笏の名も知らなかった。が、そう云う偉い人を知らずにいるのは不本意だっ たから、…